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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)518号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

論旨第一点について。

論旨は、上級審の裁判官が、前審において口頭弁論に列席し、当事者の陳述・証拠の申出・証人の供述を聴き、証拠決定をなし、その他訴訟指揮に関する決定に関与した場合等が、すべて、民事訴訟法第三五条第六号にいう裁判官が前審の裁判に関与した場合に当ることを前提とするものであるが、これらの場合は、いずれも、前審関与に当らないものと解すべきであるから、所論は採用することができない。

論旨第二点について。

原審は、買収基準日から前に遡る事実に同日後の事実を合せてしんしやくすることにより、基準日当時において被上告人が西春近村を生活の本拠とする意思がその生活関係の上に客観的に現われていたと判断したものであつて、かように、基準日当時における住所の所在を認定する資料として、その後の事実をしんしやくすることが許されないと解すべき根拠はない。そして、原審がこれらの事実をすべて総合して下した右判断は相当であつて、論旨の主張する転入の遅延、農地委員選挙人名簿への不登載、居村における所得税不納付の事実等は、原審の認定する事情の下では、基準日当時被上告人の住所が西春近村にあつたと認めることの妨げとなるものではない。それ故、所論は採用することができない。

論旨第三点について。

原審の認定するところによれば、被上告人は、昭和一八年頃家族全員を伴い西春近村に移転するに当つて同村を生活の本拠とする方針をもつて家具、什器の目ぼしてものは全部同村居宅に輸送し、京都の居宅は借家のままで、わずかに被上告人の寝具と自炊道具を残し、終戦後に隣人に依頼して客用座布団を造つた程度で、玄関の両側には雑草がはびこつている状況であり、昭和二六年頃から留守番を常住させるようにするまで、被上告人が訴訟業務のため京都に来る外は、ほとんど閉鎖していたというのである。右状況において、被上告人当時なお京都弁護士会に所属し、京都における事務所をまつたく廃したものといい得ないとしても、この事実は、原審の認定するその他諸般の状況にかんがみれば、基準日当時被上告人の住所が西春近村にあつたと認めることの妨げとなるものではないから、所論は採用することができない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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